Nゲージレイアウト国鉄露太本線建設記

運転よりシナリー重視コンセプトで、昭和40年代後半の風景再現を目指しレイアウトを製作中です。映像・画像を交えながら、製作記に加え、随想や旅行記も発信します。2016年9月より延伸線建設に着手しました。

マーケティング余話:ハウツー本は信じない

先日某社からのオファーで拙ブログがステルスマーケティング(oomoriさんよりご教示いただきました)のターゲットにされた話をしました。 今回はマーケティングがらみで四半世紀前の時効になった昔話と雑感です。 読み物としてご覧ください。

【おっはよ~】


◆氾濫するハウツー本
今年春ブログ村に長く掲載されてた広告があります、『●●●で月百万稼ぐ』てなキャッチコピーでした、方法論指南のハウツーです。 世の中にハウツー本は溢れており、ギャンブル必勝法からゲーム攻略本、株式投資術からダイエット・健康法まで百花繚乱です。


方法論指南と言う点ではハウツー本と参考書は近い性格があります。 敢えて言えば参考書が知識・技術習得に勉学や努力を求めるのに対し、ハウツー本は「これだけ知れば大丈夫、答えはここに」と楽な近道を唆し、解った気にさせるだけで結局役立たない中途半端さ、薄っぺらさが特徴と言え、筆者は信じてないので全く読みません。

現在俳句勉強中ですが左と上は教科書、マスターには最低十年です。 右下は初心者向け参考書、一週毎の練習問題クリアしないと先へ進めず理解できない構成です。 何でもお手軽時代、俳句ハウツー本も数多く出てますが、基本マスターからと手を出しません。 ハウツー本で解った気になるのは百害あって一利なし、回り道と考えるからです。


そもそもギャンブルは胴元が儲かる仕組みですし、未来予測不可能な経済に絶対はなく、株式投資してますが専門家意見はアテにしません。 知識・情報豊富でも結果分析解説者に過ぎず、でなければ巨万の富を築いて仕事辞め、南の島で優雅な暮らし、●●総研上席アナリストなんかしてる訳ありません。 多少信が置けるのは料理レシピとダイエット・健康法(怪し気なのも多いですが)程度ではないでしょうか。


◆突然の辞令
金儲けハウツーの論理矛盾に加え、ハウツーを信じなくなった原体験があります。 私事で恐縮ですが39歳で管理職になり●●設計グループ課長発令を受けました、その数年後の定時組織変更で突然の辞令「●●企画設計グループ課長を命ず」が出ました。

さあ困りました、それまで新製品搭載技術の素晴らしさを理解できないユーザーは馬鹿と思ってたコチコチ石頭エンジニアがマーケティング兼務になったのですから。 流行発信地として注目されてた原宿を徘徊しても何かを感じ取る感性などある訳ありません。


当時マーケティングはアート(感性)いやロジック(論理)と2学派あり、後年両側面があると納得したのですが、理科系頭の筆者は当然ロジック路線を選びました。 3日間で5万円のマーケティングビジネス研修講座を会社費用負担で受講しました。

【出展:書籍PR】・・・ハウツーっぽい事例集参考書。
成功事例・失敗事例から学ぶ式のケーススタディでしたが、教材の一つが偶然開発者から直接話を聞いてた事例であり、講師の成功要因分析は事実とかけ離れてました。 こんな講習は現場の役に立たんと、以降一切自己流で通しました。


◆後付けの成功物語
当時メディアCM一切しないのに、注文から入手まで半年以上かかる高級ゴルフクラブがありました、セイコーS-YARDです。 これが成功事例に学ぶ教材の一つでした。
[註]セイコーはゴルフ関連事業を2011年中国企業に売却しました。


★成功要因-1:想定顧客を絞り込んだ商品コンセプト
S-YARDの想定顧客は中高年アマチュアゴルファーで大きく分け以下2タイプです。
ゴルフ歴が長くそこそこの腕前、でも最近飛距離が落ちスコアが伸びず困ってる。
40歳過ぎからゴルフを始めたがスライス病に悩み、中々100を切れない。
成功要因-1は事実通りで、ライバルに飛距離で負けるのは悔しい、体力・技術不足を補うクラブなら8-9万円出しても惜しくないゴルファーにターゲットを絞り込んだのです。


その商品コンセプト実現の技術的手段は、
長尺軽量シャフト:遠心力でヘッドスピードが上がり飛距離を伸ばす。
チタン製ドデカヘッド:サイズ安心感と広いスイートスポットで打率向上。
フックフェース:正しいスイングならドローボールになる角度でスライス防止。
筆者も2000-2007年頃に使ってましたが確かに良く飛びます、シャフトが長くてキャディバックを新調する必要がありましたが。

【出展:S-YARDブランドストーリー】


★成功要因-2:作られた品薄感
講師は手に入り難いとなると余計欲しくなる人間心理を巧みに突いたマーケティング戦略と成功要因分析しました。 事実品薄が解消するまでの約3年間は定価販売、値引きする必要がなく莫大な利益を上げました。


事実は全く違います、時計の世界ブランドでも畑違い、しかも高価格クラブが売れる訳がないと大手クラブ製造メーカーは相手にしてくれませんでした。 やっと受けてくれたのが新潟の中規模メーカー、注文受けても生産能力が追い付かなかっただけなのです。


★成功要因-3:口コミ宣伝戦略
開発スタッフは試作品試打クラブを持ちゴルフ練習場回りをしました、そして想定顧客の中高年ゴルファーに『コレちょっと打ってみませんか』と声掛けしました。 すると、『良く飛ぶし曲がらないね~、どこで手に入るの?、いくら?』となります。


アマチュアゴルファーにとって100/90切りは大きな壁、その為の出費を惜しまない人は大勢います。 購入者最初のラウンド『アレーッ、今日調子良いね』(内心こん畜生~)『何?新しいドライバー!』、こうして1人から4人、4人から16人と情報拡散しました、セイコー関連会社幹部に取引先から早く入手する為の口利き依頼が殺到したほどです。 利用価値を顧客に目に見える形で宣伝させる手法が成功要因と講師は分析しました。

【雨模様の空の下色付いたカラマツ】
これも事実と違います、セイコーは早期に多角化を目指し、新規事業開拓部門を創設しました。 TV CMを盛んに行った委託生産シェーバー「クリーンカット」のヒットもありましたが長く低迷が続き、次に失敗したら部門解散の瀬戸際に追い込まれてました。


経営陣は最後の挑戦S-YARD開発を承認しても多くを期待せず、カシオ低価格攻勢で時計事業に陰りが見えてた事もあり、予算を大幅カットしました。 TV CMも大物プロ使ったゴルフ雑誌企画もできず、練習場回りは生き残る為の窮余の一策だったのです。


◆S-YARDのイフ
もしS-YARD生産を大手製造メーカーが受けてたら納期半年の品薄は発生せず、販売数と売上高は伸びたでしょう。 しかし超プレミア商品にならず、値引き販売で利益が増えたかは疑問です、そして後年中国企業が欲しがったブランドイメージを確立しました。


また、経営陣が申請予算を承認してたら、プライドが高いセイコー社員が平日夜や休日のゴルフ練習場回りなどせず「口コミ宣伝戦略」は生まれなかったでしょう。

【八ヶ岳初冠雪】


◆マーケティングに王道ありて定石なし
以上S-YARD事例で見てきた様に理論と現実はかなり離れてます。 成功事例の要因分析でマーケティング学の体系化を図る専門家努力には敬意を払いますが、ビジネス現場は●●戦略や●●理論を適用すれば必ずこうなる、何~て事は絶対にありません。


原則はあっても全てが複雑な応用問題、時々刻々変化する状況にどう対処するかの連続、BESTでなくともよりBETTERな対応をした者だけが生き残れる世界が実感でした。

【出展:書籍PR】
マーケティングに教科書はありません、これは『戦略の教科書』と銘打った参考書、読者が欲しい解答は載ってません。 市場規模・業態・自社ポジション・製品段階(開発期/成長期/成熟期)により最適解は異なるからです。 この他社事例を参考に自社最適戦略を創造する能力と熱意が読者になければ「成程ね、フーン」でお終い、役立ちません。


『お客様の声に耳を傾ける』はマーケティングの原則・王道です、でも聞き方には注意が必要、製品が成熟期なら素直に聞いて大丈夫です。 例えばほぼ100%買い替え需要家電業界では、共稼ぎ集合住宅居住者を想定顧客に静音洗濯機/掃除機が通常品数倍の価格で売れてます、夜間しか使えずご近所の苦情に配慮するニーズの付加価値です。

【出展:価格.com】・・・買い換えた拙レイアウトルーム掃除機の10倍!
しかし年々倍々ゲームで伸びる成長期製品でこれやると周回遅れで負け組になります。 製品開発には約1年、要素開発込みなら2年も珍しくありません。 『できました!』と持ってくと『ソレ欲しかったの1年前、今欲しいのコレ』と言われるのです、次々と発売される新製品と使用経験からユーザーが学びニーズが変化するからです。


成長期製品市場では発売時ユーザーに『そうだよ、コレが欲しかったんだよ』と言わせる待ち伏せ型製品開発マーケティングでないと勝ち組になれません。 そんな事どうやったらできるですって?、後は墓場持ってくだけなので筆者がやってた事を紹介します。

【名残の紅葉その1】
お客様の声、販売流通網の要望、関連業界動向など全公開情報と非公開技術開発状況から1年後予測仮説を複数立てます。 次に各仮説が正しければ現在どこにどんな兆候が表れてるハズと徹底的に検証し、どの仮説が1番可能性が高いか絞り込みます。 ここまでは100%ロジックのマーケティングです。


そして絞り込んだ仮説が正しければ、こんなコンセプトの製品(性能・機能、価格等)が1年後に売れるハズと企画作成しました、ここにはアート要素が多分にありました。


お客様の声が存在しない製品黎明期から成長後期まで10年間、市場変化に応じやり方を調整しながらN0.1シェアを獲得したので成功したと思ってます。 なお話の流れで書きましたが経歴誇示意図は全くありません、露太本線は只のジジイです、念の為。

【名残の紅葉その2】


◆Amazonに見るマーケティング戦略
通販業界は鉄道模型業界の数百倍規模、現在成長後期~成長末期段階の競争が熾烈なメガマーケットです。 市場が成熟するとパイの大きさは一定、喰い合いのゼロサムゲームになるので、各社は「ユーザー囲い込み戦略」強化中です。 プライムお試しキャンペーンもその方策で、最近入会3,000ポイント特典まで付加されました。

この記事と続報に書いた様に、Amazonは年数回利用筆者の声を真摯に受け止め、送料負担・キャンペーン不参加選択可能にシステム改修を行いました。 現場末端まで顧客の声を聴く重要性が徹底してる証拠です。 換言すれば、取るに足らんと無視し悪評が立った場合のダメージを良く理解してるからで、感動を与えるサービスは100点満点です。


◆鉄道模型業界の現状
鉄道模型業界は小規模な成熟市場です、発展可能性は低く、衰退可能性もある「お客様の声に耳を傾ける」事が重要な市場です。 なのにTOMIXは通電不良・切替不良ユーザークレームに真面目に対応しません、何故だか解りますか?、解説しましょう。

【名残の紅葉その3】
TOMIXはファイントラックでユーザー囲い込み完了と安心してます。 KATOは複雑線形不能、Pecoはポイント品種豊富でも分岐角10度でスペース食うし高価、それにTOMIXで鉄道模型始めたユーザーは電気苦手で勉強しないから逃げられる訳がない、製品改良必要なしと高を括ってるのです。 実にユーザーを馬鹿にした企業です。


不思議に思ってる事があります、何故KATOは簡単に作れるカーブ/三枝ポイントを発売しないのでしょう?、技術的ハードルは高いですがダブルスリップを含め3種の高信頼性ポイントをラインナップすればユニトラックシェアが大きく向上するからです。

名残の紅葉その4】
KATOポイントはTOMIX完全選択式移行前の「片側選択式」と同じ電気特性のハズです、筆者がKATOマーケティング担当なら技術陣にハッパ掛け、上記3種の完全選択式新世代ユニトラックで一気にTOMIXからシェアを奪います。 油断し切って製品改良を怠り、お客様を金を毟り取る対象としか見てないTOMIXに勝つのは簡単な事です。


以上、マーケティングがらみの昔話からとりとめのない長い話になりましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


ではまた。

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