Nゲージレイアウト国鉄露太本線建設記

運転よりシナリー重視コンセプトで、昭和40年代後半の風景再現を目指しレイアウトを製作中です。映像・画像を交えながら、製作記に加え、随想や旅行記も発信します。2016年9月より延伸線建設に着手しました。

電源製作⑤出力回路 その1

電源製作5回目、今回はコンパレータ出力を電流増幅して1.2Aないし2Aの容量を持つ出力回路の設計です。 高性能実現の核心部分なので少々専門的な解説を避けられません。 解らない部分は飛ばし読みか波形を絵本見る気でご覧になりフーンでも結構です。


5.出力回路の設計
5-1.何をする回路?
PWMパルスを発生させるコンパレータが流せる電流は最大15mA、LED1個点灯が精一杯です。 テープLED室内灯1両分にも満たず、モーター回す力はありません。 また電流を増やすと応答速度が遅くなる傾向なので極力少ない電流で使います。

出力回路はコンパレータ1mA程度の電流で1.2Aないし2Aの出力を得る回路で、トランジスタスイッチ基本回路を使います。 TR02が電源ON/OFFを、TR01がTR02のON/OFFを行い、双方の電流増幅率を掛け合わせると数千倍の電流増幅(アンプ)が可能です。


実は赤線で囲った部分はコンパレータIC出力回路その物で、0.5A電源ならコンパレータで直接TR02をON/OFFできますが、開発仕様1.2AなのでTR01が必要になります。

【TOMIX N-1001-CL回路基板】
数百mA以上をON/OFFするTR02にはパワートランジスタを、数mA~数十mAをON/OFFするTR01には小型トランジスタを使います。 市販PWM電源も基本はこの方式です。


5-2.部品選定で性能の7割が決まる
高速動作が必要なコンパレータ以降の回路は、ON/OFFスイッチングを行うトランジスタで性能の7割が決まります。 部品選定では【耐圧】【電流】【直流電流増幅率hFE】の基本特性に加え、高速動作代表指標【fT】を最重視しました。


トランジション周波数fT:増幅率が1になる周波数、使用可能周波数範囲の指標。


5-2-1.TR01の部品選定

TR01には2SC1815Yを使います、安価な汎用品ですがfT80MHz以上で十分な性能です。 秋月は10個単位販売です、入力回路にも1個使用予定です。


5-2-2.TR02の部品選定

TR02にはパワートランジスタ2SA1359Yを使います。 秋月の使用可能部品で最もfTが高い100MHzです、他は全て15MHz~30MHzで役不足でした。 なのに何故か仕様書に低速度スイッチング用と書いてあり???です、最後のPcは後で説明します。


5-3.残り3割は周辺回路で決まる
5-3-1.スピードアップコンデンサ

トランジスタスイッチング高速化定番技法で、効果と動作解説する公開情報が数多くあります。 オペアンプコンパレータの場合は必要で有効ですが、今回は不要です。 

【『電源製作③コンパレータ』より転載】
設計回路はコンパレータ出力とTR01ベース直結です。 コンパレータ出力LでTR01がOFF、Hで電源から33kΩを介してベース電流が供給されTR01がON、ベース電圧は0.7Vになります。 ちなみにベース電流は0.25mA/9V、0.34mA/12V、0.46mA/16Vです。


5-3-2.オーバードライブ
トランジスタ使用法公開情報には負荷電流とhFE最小値で必要となるベース電流の3倍を目安にベース抵抗を決めましょうと書いてあります。 トランジスタを完全にONさせ、損失を減らす事が目的でこれをオーバードライブ(過飽和)と言います。


トランジスタは『車は急に止まれない』、ONし易くOFFに手間取る性質があります。 このブレーキの利きの悪さはオーバードライブにより更に助長されます。 従って今回の様な高速スイッチング回路では、かなりピンポイント設計が要求されます。


5-4.実験回路の設計
以上解説した条件で実験回路を設計しました、まず12Vで設計を固めます。

5-4-1.TR02ベース抵抗
R13を470ΩとしTR02ベース電流24mAの設計にしました、2SA1359hFE最小値80、1.2Aの1/80は15mA、オーバードライブ1.6倍(24/15)です。 R13熱損失は0.27W(0.024x0.024x470)なので1/2W仕様の抵抗です。 TR01の2SC1815hFE最小値120.24mAの1/120は0.2mA、オーバードライブ1.7倍(0.34/0.2)に抑えています。


5-4-2.実験用ダミー負荷

【『TOMIX電気設計の検証その5』より転載】
昨年調達した47Ω/10Wセメント抵抗2本並列にしてダミー負荷にします、合成抵抗23.5Ωは最大出力12Vで0.5A、1M5-6両編成+室内灯に相当します。


6.性能比較実験
実験回路①と市販電源で常点灯性能比較ガチンコ勝負をしました。
6-1.KATOハイパーD
2012年に購入したKATO旧製品でPWM方式ですが常点灯機能を仕様記載してません。 後継機ハイパーDX並びにスタンダードSXは性能向上し常点灯仕様になってます。 KATO新製品性能に興味がありますが、評価目的購入は懐が痛みます(笑)

走行開始電圧調整ボリュームで出力1Vに調整しました。

ハイパーD電源電圧は15Vなので、出力電圧1V理想波形はパルス幅3.3μsec矩形波ですが、パルス幅6μsec、最高電圧13Vの少し鈍った出力波形でした。 理想波形と実際波形の面積は同じ(テスター計測で同じ出力電圧)ですが、波形鈍りによる最高電圧の低下が常点灯性能を悪化させ、特にテープLED室内灯の場合に大きな影響を与えます。

出力電圧0.5V計測を試みましたが、安定してパルスが出力される下限は0.6Vでした。 それ以下はコンパレータ出力が出たり出なかったりで電圧が安定しません。 理想波形のパルス幅2μsecに対し、パルス幅4.2μsec、最高電圧11.7Vの鈍った出力波形でした。


6-2.TOMIX N-1001-CL
昨年低周波PWM改造を行ったN-1001-CLにはオリジナルに戻す切替スイッチを設置してあります。 回路設計はお粗末な代物ですが、常点灯機能は十分実用的な性能です。

TOMIX常点灯調整はステップ式なのでメインボリュームも使い1Vに設定しました。

N-1001-CL電源電圧は12Vなので、出力電圧1V理想波形はパルス幅4.2μsec矩形波ですが、立ち下がりが鈍ったパルス幅8μsec、最高電圧10.9Vの出力波形でした。 KATOに比較し最高電圧付近がなだらかな特性は、電圧ロスのあるLED室内灯に有利です。

N-1001-CLが安定してパルスが出力される下限は0.6V~0.7V、何回かトライして0.6Vの計測ができました。 理想波形のパルス幅2.5μsecに対し、パルス幅6.5μsec、最高電圧10Vの鈍った出力波形でした。 頂上にある凹みが限界動作点を示しています。


6-3.筆者設計実験回路①
『高性能電源』を宣言した以上、市販品を上回る性能が目標です。 始めてのPWM電源設計でも多分大丈夫と思う半面、ブログで恥を晒す心配も少しはありました。

実験回路①出力電圧1Vはほぼ理想波形、立ち下がりがわずかに鈍ってるだけでした。 同じ出力1VでもテープLED室内灯点灯に寄与する8V以上の面積が、N-1001-CLの倍
あります、つまりTOMIX製品より1Vで2倍明るく点灯します。

出力電圧0.6Vもほぼ理想波形、立ち下がりの鈍りは1Vと変わりません、8V以上の面積はN-1001-CLの4-5倍です、常点灯域が非常に広い特性で、この勝負は筆者の完勝です。 ただし一つだけ気になる点がありました、KATOハイパーDと同じく出力電圧0.6V未満では安定した出力電圧が得られないのです。


6-4.何故デューティー5%未満は制御不能なのか?
KATO/TOMIX/筆者設計実験回路①の全てがデューティー5%、0.6V未満は出力電圧が安定しません。 実用領域外だし市販品に劣る訳じゃないから良いかと見過ごせないのが昔取った杵柄『設計屋魂』なのかもしれません。

そこで実験回路①の入出力を比較しました、見易くする為、入力縦軸を10倍に拡大してます、TR01ベースを0.7Vと解説しましたが実測結果は0.78Vでした。 立ち上がり応答遅れ0.2μsecに対し立ち下がり応答遅れ2μsecとブレーキの利きの悪さ発揮です。

安定出力限界点まで下げてみました、コンパレータ出力最小パルス幅は1.1μsec、デューティー2.2%でした、しかし実験回路①の応答遅れにより出力電圧の最小パルス幅は2.5μsec、デューティー5%と2倍以上に伸びてました。


次回、制御可能デューティー比改善考察と追加実験を予定してます。 高性能目指すならトコトンやりたい、でないと悔いが残ります。 『0.5V未満は良いから早く進めて』の声が出そうですが、気が向くままの電子工作にもう少しお付き合いください。


ではまた。

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