ツル操の話 組成作業
旅客列車の編成表と同じ様に貨物列車にも列車毎に貨車の編成順序が決められており、ダイヤ改正の都度改定される『貨車集結方』に全貨物列車の編成順序が記されてます。 新鶴見操車場始発貨物列車の『貨車集結方』で具体的に説明します。
『貨車集結方』の編成順序は列車進行方向最後尾から番号順に記載されており、1.の最後尾はヨまたはワフの緩急車です。 解り易い1861レから説明します。
1861レは九州門司以遠行貨車だけで編成し、最後尾ヨを加えた九州直行貨物列車で、途中の操車場での作業はなく、その様にダイヤが組まれてます。 ヨを加え最大52両編成ですが、トキやタキ等車長の長い貨車は2両とカウントします。 また『換算110両以内』は合計1,100t以上の貨車を連結してはならないの重量制限で『牽引定数』と呼ばれてます。
最初の155レは複雑過ぎるので、次に吹田操車場行173レを説明します、吹田以遠行つまり終着駅に直行して良い貨車の前に沼津以遠行貨車を25両を上限に連結し、全体で55両以下に編成した貨物列車です。 1861レの様に同一目的地貨車だけで編成される場合を1段組成、173レの2目的地の場合を2段組成、155レの様な場合を多段組成と呼んでました。
なお173レの『沼津以遠行貨車』とは、沼津以遠が目的地の貨車ではなく、沼津で解放する貨車の意味で、沼津の次の拠点静岡から先が目的地の貨車は含まれません。
組成作業は分解作業の様にバンプを使った華々しい作業ではなく、仕訳線に留置された貨車を『貨車集結方』に従って連結する入換作業なので、華々しさはありません。 前号最後に紹介した様に9600が地味な組成作業を担当してます。 組成作業が完了し出発線に移動すると、組成内容を受け入れ準備情報として吹田と沼津にテレタイプで送ります。
貨物輸送量は毎日大きく変動するので、仕訳線に組成に必要な貨車が留置されてない場合が生じます。 173レの場合55両の制限に対し45-50両なら出発させ、この様な貨物列車編成を『財源不足』と呼んでたそうです。 一方例えば30両未満の場合は運休し、翌日まで組成に必要な貨車が溜まるのを待ちます。 乗客1人でも運行する旅客列車と違う点です。
『貨車集結表』一番下の995レはローカル各駅停車貨物列車で、国府津以遠行、国府津解放貨車30両以内の前に中間駅行貨車を連結した編成です、記載ありませんが全体両数長さ制限と牽引定数重量制限があります。 中間駅とは新鶴見操車場-国府津間の各駅です。
995レの中間駅行編成は、停車駅での貨物入換作業を容易にする為に新鶴見操車場から近い順に前から並ぶ様に編成されてます。 新鶴見操車場で分解作業し、国府津までの中間駅行貨車は1本の仕訳線に分類留置されてますが、順番はバラバラです。 仕訳線から引出し、到着駅順に並べ替えるのが入換機関車配置表の『駅別組成』で、9600が担当してます。
『駅別組成』の入替作業は突放で行われます。 引出した編成を仕訳線末端部を使って突放して着駅別に分類してから指定編成順に再連結します。 ところで中間駅に辻堂が抜けてる事にお気付きでしょうか、辻堂は貨物側線が上り側からだけ開通した駅だったからです。
辻堂発関西行貨車は一旦上りローカル貨物列車で新鶴見操車場へ行き、そこで関西行編成に組み込まれ下り貨物列車で目的地に向かいます。 同様に東北発辻堂行貨車は、新鶴見操車場で下りローカル貨物列車の中間駅行編成ではなく、国府津解放編成に組み込まれ、国府津から折り返し上りローカル貨物列車で辻堂着になります。
分解作業と組成作業を完了した新鶴見操車場始発貨物列車編成は出発線に移動し、発車時刻を待ちます。 以上の複雑な操車場内作業をどの様に管理してたのでしょうか。
『構内作業ダイヤ』が組まれており、上図は新鶴見操車場の9-12時のダイヤです、細か過ぎて何が書いてあるか解りません。 その解説です。
この『構内作業ダイヤ』で何処で、何を、どの順番で行うかが明確にされてます。 しかし計画通り進まないのが現実で、到着貨物列車遅延や事故の影響等が頻繁に発生します。
『構内作業ダイヤ』各部の進捗状況を把握し、列車指令、機関車指令、配車指令と連携して必要な作業変更指示を行う神経中枢機能が『輸送本部』です。 人の臨機応変力に頼ってたと言えます。 それでは新鶴見操車場から毎日貨物列車が何本発車してたか見ましょう。
下り貨物列車101本、東海道を下る67本の他に高島(横浜港)行や浜川崎行の輸出品や工場原材料積載と思われる貨物列車もあります。 下り貨物列車85本、大宮操行は東北、上信越沿線行、八王子行は中央本線沿線行、立川行は青梅・五日市線沿線行でしょう。
上下貨物列車186本が新鶴見操車場から発車してた訳で、これは24時間体制で7分45秒に1本の割合で、過密と言える状態でした。 また東海道下りだけで毎時3本貨物列車が運転されており、過密ダイヤの大きな要因になってました。 最後にまとめです。
操車場へ到着してから『分解作業』『組成作業』を経て貨物列車が編成され、次の目的地に向かうプロセスを解説しましたが、操車場作業にどの程度の時間を要してたのでしょうか、新鶴見操車場単独でなく、貨車が操車場で過ごす滞留時間全国平均統計データで見ます。
操車場平均滞留時間は668分11時間強です、しかし実作業時間は147分2時間半弱で、8割近くは作業合間の待時間、特に仕訳線の組成待時間が438分7時間以上で2/3を占めてます。 貨物は貨車1両単位、貨物列車は50両単位の鉄道貨物輸送の特性が生む非効率さです。
更に引いた視点で国鉄貨物輸送全体を俯瞰できる1960年の統計データがあります。 積車、空車別にまとめられてますが大差なく、積車に注目します。 貨物積載貨車は平均318km先の目的地へ2.6回の中継点(操車場)を経て輸送され、発着駅間平均速度は9.3km/hに過ぎません。 つまり新鶴見(東京)-吹田(大阪)間に約60時間2日半を要する計算です。
当時は名神高速も東名高速もなく、東京-大阪間トラック便は2人乗務(交替運転手)で国道1号線を20-22時間で到着し、国鉄貨物優位性はコストだけでした。 1969年に東京-大阪間高速道が全通すると、トラック便が1人乗務8-9時間で到着可能になりました。 動きが早い時代に、納期指定できない国鉄貨物輸送はミスマッチし脱落したのは当然の結果でした。
【JR貨物HPより】
民営化されたJR貨物は、国鉄貨物輸送の弱点を捨て去り、強味を活かして勝負する事業戦略を取ってます。 操車場から名前と機能を変えた貨物ターミナルでトラックと規格化されたコンテナを授受し『遠くまで』『大量に』『時間正確に』輸送する事に徹してます。
01.の『貨物列車26両分は、10tトラック65台分』は国鉄時代の52-54両編成と同じ長さ制限(コキは2両とカウント)と解ります。 10tトラック65台分650tは、牽引定数に余裕があります。 トラック運転手勤務時間の2024年問題は、JR貨物に追い風になった様です。
ではまた。


















