湘南電車の話
★断片的記憶
『◇◇ちゃん湘南電車が来たよ、何台か数えてごらん』父の声に水遊びを止めて顔上げると緑色と蜜柑色の絵本で見た電車が鉄橋半ばに差し掛かってました。 覚えたての数え方で『1・2・3・・・』と数えると15両編成でした。 1953年夏、3歳半の朧げな記憶の断片、相模川か酒匂川か場所も解りませんが、最初に見た長大編成列車の記憶画像です。
【根府川鉄橋にて】
★常識を覆した80系
鉄道省時代電車は都市近郊交通を担う補助的手段で、長距離運転列車は機関車牽引客車列車に限ると考えられてました。 動力台車の振動と騒音が乗り心地に悪影響を与え、中長距離列車や優等列車には使えないと考えられてたからです。 国鉄創立後その常識を覆したのが80系で、10年後の151系特急型電車、15年後の0系新幹線車両誕生の礎を築きました。
【鉄道P誌1965年3月号表紙】
鉄道P誌が湘南電車15周年記念特集を組んでます、思えば初の長距離用電車登場から新幹線誕生まで15年は、その後の進化と比較しても驚異的なスピードでした。
★1次型82両登場
80系は国鉄初の長距離運転電車として計画・開発され、主目的が沼津までの電化区間機関車牽引普通列車置き換えだった為、最大16連の長大編成運転が前提でした。
それまでの技術蓄積と鉄道研究所開発技術を取り入れ、乗り心地と高速時の振動抑制を両立させた台車を開発採用し、経済性の観点から電動車・付随車比率は2:3と決めました。
誕生時の80系先頭車は所謂『湘南顔』ではなく、非貫通3枚窓の平凡なスタイルでした。 長大編成前提なので先頭車は制御付随車のみ、クモハは存在しません。
後年の電動車2両ユニット化はまだ採用されておらず一匹狼のモハです。 M:T比2:3なので、最低モハが2両ないと編成を組めません。
当時の客車編成普通列車には、運賃2倍の二等車(後のグリーン車)が編成に組み込まれており、80系電車にも用意されました。
手小荷物扱いがあった当時の客車編成普通列車には、荷物車または荷物合造車が組み込まれており、80系電車もそれに準じてます、モユニは下り方に連結運用されてました。
筆者の幼時記憶はこの14連にモユニを加えた15連だった様です。 14連中M:T比からモハは6両ですが製造数から7両だった様で、クハ2両、サロ1両、サハ4両と推定されます。
初の長距離運転電車設計では、居住性と乗降性両立に悩み、標準的客車より座席幅を狭くして客室通路、客室扉幅を広くし、デッキスペースを広げ乗降扉も幅広にしてます。 三等車座席上半分は木製背板でした。 トイレはデッキ側から出入りする構造でした。
三等車室内は度々変更されてます。 1次車シート幅905mmはキハ10系並みに狭く、ピッチ1400mmはオハ61系並みで、乗降性を優先した設計は、居住性に皺寄せされてました。
2次車では評判の悪かったシートを全面モケット張に改良し、シートピッチを80mm広げ1,480mmにしてます、これに伴い側面窓も幅広になってます。
更に翌年には居住性改善を目的に、シート幅を通常客車並みの970mmに広げ、通路幅は800mmから670mmに狭くなってます。
二等車はシート前後ピッチを広げシート幅も広げて通路幅を狭め、客室扉・デッキ・乗降扉幅も客車と同等にしてます。 トイレは登場時には進駐軍関係者配慮で洋式が設置されましたが、当時の日本人には馴染みがなく、2次車から和式に変更されました。
1949年から1958年までの10年間に652両製造されました。 80系以降の電車進化の速度を考えると、151系登場の1958年まで製造されたのには驚かされます。
肝心の『湘南顔』に変わったのは何時かですが、登場初年度末の東急車輛試作編成からで、かなり初期からでした。 当初は東京-沼津間、東海道本線電化に連動して西へと進出し、クリーム色と小豆色塗装(後に標準色化)で京阪神地区快速列車に運用されました。
★東海道を走る1次型の雄姿
登場直後は新規技術関連の故障が多く『遭難電車』の不名誉な綽名を頂戴しましたが、初期不良解消後は、走行地域から『湘南電車』の愛称で広く親しまれました。
電機牽引客車列車より加減速性能が良く、最高速度も100km/hと高かったので、東京-沼津間スピードアップの立役者になりました。 80系の成功が電車時代の扉を開きました。
モユニは最初から湘南顔でした、製造が2次車と同時期からだったからでしょう。
東京発浜松行普通列車が80系電車で運行されてたと解ります、200km以上、所要5時間以上の普通列車は、ごくありふれた存在でしたが、電車では初でした。
国鉄の車両と言えば黒い蒸機と茶色い電機、茶系の客車か電車だった時代に、80系の明るいツートンカラーは斬新で、新しい時代の到来を予感させる存在だったと思います。 特急『つばめ』青大将登場前、勿論ブルトレの前の話です。
【お知らせ】2/24更新記事『TOMIX電気設計は今も出鱈目です!』に誤りがあり、修正再更新しましたのでお知らせします。
ではまた。





















