Nゲージレイアウト国鉄露太本線建設記

運転よりシナリー重視コンセプトで、昭和40年代後半の風景再現を目指しレイアウトを製作中です。映像・画像を交えながら、製作記に加え、随想や旅行記も発信します。2016年9月より延伸線建設に着手しました。

鉄道模型車両価格の経済学 序章

40年振りに鉄道模型に復帰した5年前、精巧なNスケール蒸機が1万円前後で購入できる事に驚かされました、物価上昇率込みで比較すると昔の1/10の価格だからです。 鉄道模型車両価格、どの様に決まってると思われますか?、それが今回のテーマです。

な~んて、ハナちゃんが家族になってからレイアウト製作時間が半減し、着手した雪崩覆いが予定通り進まない現状です。 2ヶ月で体重900g、誕生時の10倍になりました。

成長に伴い活動量も体力も大幅アップ、家中を駆け廻り探検し大運動会、ジャレ方も半端じゃありません、将来無気力猫にならぬ様スキンシップに努めながらの更新です(笑)


さて本題、筆者サラリーマン人生前半は電子回路設計技術者、後半の経験、昔取った何とやらで、鉄道模型を含む工業製品価格の費用構造が推定できます。 それを使って現在の鉄道模型車両価格を眺めてみました。


1.鉄道模型車両価格の費用構造
1-1. 比重が高い開発費

『製品ライフサイクル』(黎明期/成長期/成熟期/衰退期)、『市場規模』、『流通』により比率は異なりますが、工業製品は上記5要素で販売価格が決まります。


鉄道模型業界は典型的な成熟産業で規模が小さいニッチ市場と位置付けられます。 この種の市場で大きな比率を占める開発費からその中身を見て行きましょう。

開発費は販売台数に全く関係なく製品発売までに発生する費用です。
①企画
製品を販売して利益を得、存続拡大する事が企業目的である以上、どんな製品を発売するかは非常に重要です。 企画スタッフ・マーケティング費用等が含まれます。
②設計
発売製品が決まれば設計です、設計スタッフ・設計設備・計測器・試作機械の減価償却費(又はリース費)・ソフトウェア開発費等が含まれます。
③金型
少量でも量産には金型が必要です、成型金型寿命は50万-100万ショットですが、寿命1/10で良いから金型代1/10とはなりません。 開発費の大きな部分を占めます、3D加工コストが下がれば金型レスへ向かうと思われます。
④試作
3D CADやシミュレーション技術が進歩しても設計完了、即量産はまず無理です、最低モックアップ、駆動系新技術があれば非常に高価な完動試作品確認が必要です。


他製品との部品共通化や過去設計資産流用により開発費は大きく変動しますが、ここでは控え目の見積額1,000万円として分析を進めます。


1-2. ロット生産数量の決定
ロット生産が宿命の鉄道模型車両は、必ず採算検証の為にロット生産数量を決めます。 企画マンの腕の見せ所、過去データや市場動向、大口顧客打合せ等を通じ完売可能な最大数量を割り出します。 業界大手K社を例にロット生産数量4,000台と仮定しました。

開発費1,000万円を生産数量4,000台で割ると¥2,500/台の開発費償却になります。 数量が決まれば直接製造原価も決まり¥3,100と仮定しました、製品コスト¥5,600です。 では直接製造原価の中身を見て行きましょう。

①材料費
製品を構成する部品・付属品・パッケージ・マニュアル、更には製造で使われるハンダやグリス等の補材も含まれます。 部品コストは発注数量により変動します、10個と1,000個では部品メーカー生産効率が大きく異なり、それが部品コストに反映するからです。
②製造
ラインスタッフ・製造設備や治工具の他に、光熱費・借地料等製造に係る設備維持管理費も数量割で加算されます。 ライン機種切替費も生産数が少ないと無視できません。
③検査
製品に直接係る部品受入検査・製品出荷検査スタッフの他に、職場環境測定や仕事のプロセス審査等、労働関連法規や基準認証で定められた検査も含まれます。


1-3. 販売価格の決定
販売価格と販売数量は相関関係にあるので、通常は企画段階で販売価格案を決めスタートします。 しかし、搭載予定新機能の開発費が不明な場合や、特殊製品でロット生産数量決定が遅れた場合は、発売間際まで販売価格決定がズレ込みます。


筆者は車両へ興味が薄く新製品発売情報をほとんど見ませんが、発表時は「確定価格」「予定価格」「価格未定」の3ケースがあるのではないでしょうか?。 この分析はK社が販売価格¥10,000で企画した製品(例えば蒸機)を例にしています。

製品コスト¥5,600と販売価格¥10,000の差の内訳は上表の様になります。
①販売会社マージン
少販売数量・高価格・ライフサイクル前期(説明やデモが必要で手間がかかる)製品ほど高マージンになります、メーカーと販売会社の力関係で一律ではありません。

例えば、1-2台仕入の小模型店は25%、5-10台の大模型店は30%、50-100台の大手は33%の様に変わります、大手から『35%でないと扱わない』と言われたら従うか販売を諦めるしかありません。 ここでは平均30%、¥3,000としました。
[注]業界最大手Y社・J社が一番安いのは、このマージン差によります。
②メーカー利益
販売会社マージン30%でK社売上高は¥7,000/台です。 健全な企業経営の維持継続には約10%、¥700の営業利益が必要です。
③一般管理費
その他に必要な約10%、一般管理費¥700の中身を見て行きましょう。

Aグループは製品に係る職種、購買・営業・宣伝広告スタッフ、Bグループは企業運営に係る職種のスタッフです。 Cグループ職種は外部委託が多いですが費用が必要です。 また本社や工場の運営維持管理にも費用がかかり、A-D総費用が売上高の約10%です。


1-4. 鉄道模型車両は高いのか安いのか
これから先のお話をする基礎情報として今回は費用構造をまとめました。
①販売価格:¥10,000
ご承知の様に実勢価格は最低5%、通常10%、最大20%の値引き販売です。
②メーカー出荷額(売上高):¥7,000
販売会社は経費・利益を横目に見ながらマージンを削って値引きしています。
③製造コスト:¥5,600
メーカーが暴利を貪っている訳ではありません。
④開発費償却:¥2,500
高いと感じる読者が多いかもしれませんが、開発投資が必要で市場規模が小さい鉄道模型業界の宿命です。
⑤直接製造原価:¥3,100
工業製品として原価率が低い部類ですが、外食産業に比べれば相当高いです。


筆者個人は販売価格¥10,000は非常に安いと感じています、その理由は以下のシミュレーションです、皆さんはどうお考えでしょうか?。 


★もしもK社が旧モデルの「未塗装組立キット」を発売したら

直接製造原価¥3,100の材料費は2/3程度です、成形部品は打ちっぱなし、簡単パッケージとマニュアルを付けて¥2,200が「未塗装組立キット」直接製造原価、開発費償却は完成品で回収完了でゼロと仮定しても、販売価格は¥3,900になります。 30-40時間かけて組立・塗装し完成度は量産品に遠く及ばない(筆者の場合)、答えは明らかです。


ではまた。

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